母校に帰ってきた先輩
先日、看護学概論の授業に、一人の卒業生が講師として招かれました。順天堂大学医学部附属練馬病院で麻酔科・ペインクリニックに所属し、「特定行為看護師」として活躍する小村成利さんです。
小村さんは西武文理大学看護学部の1期生。2009年、まだ開校するかどうかも定かではなかった時期にこの大学に入学し、以来、手術室看護師、そして「特定行為看護師」という専門性の高い資格を持つ看護師へとキャリアを重ねてきました。
今回、講演後には在校生からのインタビューも行われました。学生時代の話、キャリアを選んだ理由、そして後輩たちへのメッセージ。その内容を通して見えてきたのは、「なりたい自分」ではなく「ありたい自分」を大切にしてきた、一人の看護師の歩みでした。
1期生としての学生時代
小村さんが西武文理大学を選んだのは、実はここが「1校目」に見学に行った大学だったから。当時はまだ開校前で、学生が集まるかどうかも分からない状況だったといいます。
それでも進学を決めた理由を、小村さんはこう振り返ります。
「担当してくれた先生が『あなたなら大丈夫よ』って言ってくれて。教員との距離が近くて、フォローも手厚かった。それが自分に合っていたんですかね」
薬理学で半分近くの学生が苦戦し、2年生の模試では学年全体が全国で下から2番目という結果だったといいます。それでも仲間と先生に支えられながら猛勉強を重ね、無事に看護師国家試験に合格します。
手術室看護師としての10年
就職先は、現在も在籍している順天堂大学医学部附属練馬病院。最初は整形外科・泌尿器科の混合病棟に配属され、その後、中央手術室へ。器械出し看護師、外回り看護師として、10年近くのキャリアを積みました。
手術室看護師は、医師に手術器械を手渡す「器械出し」と、周術期全般に関わり手術を間接的に支える「外回り」の2つの役割があります。手術前の情報収集から当日の環境整備、バイタルサインの把握、そして術後の評価まで、業務は多岐にわたります。
「病棟看護師として10年働いた人と、手術室3年+病棟7年の人がいたとして、正直、看護ケアの質はあまり変わらないと思うんです。でも手術室で学ぶ解剖の知識や器械の清潔操作、術後合併症への理解は、その後の看護師人生にプラスになる。だから手術室から始まったのは、ラッキーだったと思っています」
後輩の教育を任され、リーダーとしての役割も担うようになった小村さんですが、3年が過ぎ、ある程度自律してきた頃、停滞期が訪れます。
停滞期の先にあった「特定行為」という選択
「弱いところをちょっとずつなくしていこう」と考えていたときに出会ったのが、「特定行為」という資格でした。
特定行為とは、高度な知識と技能を習得した看護師が、医師があらかじめ作成した手順書に基づいて、21区分38項目の医行為を行うことができる制度です。医師が近くにいない場面でも、タイムリーに適切な医療処置を提供できるようになります。
その中でも小村さんが選んだのが、気管チューブの位置調整や人工呼吸器からの離脱、橈骨動脈ラインの確保など8項目からなる「麻酔パッケージ」でした。
「一番自分に近いな、と思ったんです。今の自分に足りないもの、スペシャリストになるために必要なものを考えたときに、これだと。ちょうど当院も研修施設になって募集が始まったタイミングで、運とタイミングがすごく良かったんですよね」
インタビューでは、「スペシャリストになりたい」という思いの背景についても語ってくれました。
「弱みとか苦手な分野があってもいいとは思うんです。でも、自分がこうなりたい、ありたいっていうところを突き詰めていった結果が、スペシャリストという形になっただけなのかもしれません。新しいことや知らない世界に一歩踏み出すのが、すごくワクワクするし、自分の成長につながる。その感覚を信じて、前に進んできた感じですね」
2023年、特定行為看護師研修の1期生として研修を受講。約1年間、講義・テスト・実技テスト・実習を経て、2024年に無事修了しました。
現在の仕事 ― 麻酔科・ペインクリニックの特定行為看護師として
現在は看護部を離れ、麻酔科・ペインクリニックという診療科に所属し、周術期の麻酔管理に携わっています。
手術前診察では、患者の既往歴や身体所見、アレルギー、内服薬歴などから得られる情報をアセスメントし、医師へ報告。周術期の麻酔管理では、麻酔導入から手術中、麻酔覚醒までを、特定行為と「具体指示書」を用いて安全に管理していきます。
「医師が横で見守っている場面もありますが、意外と一人で対応する場面も多くて、気の引き締まる環境です。特定行為研修で学んだことや、日々の勉強を活かして、安全に麻酔管理を行っています」
術後回診や、産婦人科での無痛分娩における硬膜外麻酔の調整、さらには手術室看護師への教育にも携わるなど、活動の幅は広がっています。
ホスピタリティ、そして文理で学んだこと
インタビューでは、大学時代に印象に残っている「ホスピタリティ」についても聞きました。
「ゼミの先生が、『毎日来てもいいから、気にせず勉強しなさい』って言ってくれて、お菓子を出してくれたり。そういう距離の近さ、温かさが、ここの大学にはありましたね」
その経験は、今の仕事にもつながっているといいます。
「人と人との関わり方の温かさや近さは、文理生だからこそ学んだことかもしれません。ただ、近ければいいってものでもないんですよね、患者さんって。それを欲していない人もいる。その空気を読む感覚も、ここで学ばせてもらった気がします」
後輩たちへ ― “なりたい”じゃなく”ありたい”を
講演の最後に小村さんが伝えたメッセージは、「無理しすぎないこと」、そして「ありたい自分を目指すこと」でした。
看護師を目指す高校生へは、こんな言葉を送っています。
「自分がどうありたいか。ありたいところを目指して、一歩ずつでいいから前に進んでいってください」
進路に迷っている人に向けては、こう続けます。
「看護師という枠の中でも、なりたい看護師像は意外と幅広いんです。可能性は広がっていますよ」
実習の大変さや職場環境への不安から、一歩を踏み出せずにいる人も少なくないと言います。それでも小村さんは、現場のリアルを知った上で、こう語ります。
「患者さんに『ありがとう』って言われる瞬間の重みは、他では得られないものがある。誰かの支えになれたという気持ちが、それ以上のやりがいになるんです」
“なりたい”は、目標そのもの。”ありたい”は、大切にしたい価値観や想いといった内面を表す言葉だと、小村さんは言います。看護師を目指した最初の理由や、これまでの経験の中にある想いは、今も変わらず、自分の土台になっている――そう締めくくってくれました。